入り江の夕日−三瓶町皆江−
 宇和海に開けた三瓶湾の南東部の入り江に皆江集落がある。
  皆江は、集落の南部を流下する大川の扇状地に開けた集落。かつては、近在の蔵貫、下泊など浦々の中心的集落であった。三瓶南中学校にその名残をとどめていたが廃校となって久しい。
  集落の背後は、急峻な山が迫り、山裾から頂上辺りにまでミカン畑が連なっている。舟だまりの小型漁船は半農半漁の証。オレンジ色に染まった入江に漁船が一隻、エンジン音を残し高島の島影に消えてゆく。海と空との間隙に、夏の夕日がゆっくりと宇和海に沈んでいく。皆江の入り江は夕日がよく似合う。
 皆江は、比較的古くから開けた集落である。近在では数少ない庄屋屋敷の長屋門が残っている。歌舞伎くずし(盆踊り)やいのこうた(亥の子)など民俗にも古色をとどめている。
 集落のコウチヤブ(字名)は、長宗我部軍との戦闘があったところ。土地の古老は、宇和島歌舞伎によって伝承されているという。コウチヤブの背後はダキ(岩)が散在する山。その三合目辺りにひときわ大きなダキがある。ダキ上に白王神社が鎮座し、白王山宇都宮大権現八坊の石碑が立っている。「この辺りに祠がたくさんありました。土地の者が個人でお祀りしておりましたが、土砂崩れなどの恐れもあって祠を三嶋神社に集めました。宇都宮大権現の祠も三嶋神社に集めました。ところが村に不幸が起きて、これはてっきり宇都宮大権現の祟りではないかという者もおりました。そこで元に戻すことになりました。神社はそのとき建てたもんやけん、そうですなあ60年ほど昔のことになりましょうか。毎年7月にオシロウサンのお祭りをしております。」と土地の古老はいう。オシロウサンは「白王山」から転化したものだろう。 皆江に庄屋長屋が現存する。近在の下泊の庄屋長屋とともにこの地方の貴重な古建築である。平成17年7月
皆江峡谷
  皆江集落の東方に「権現山」が聳えている。山麓に一筋の深い峡谷があり、「大川」となって皆江の入江に注いでいる。
  権現山に降る雨は、皆江から明浜町の田の浜、高山の集落を潤す恵みの水だった。日照りが続くとこれらの集落から権現山に登り雨乞いが行われることもあったという。
  皆江集落から大川沿いに峡谷に入り、権現山の山頂に向かうと、バベ(ウバメガシ)に覆われたひっそりとした山道が続き、時折、シジュウカラやヤマガラが眼前をよぎる。対岸で紅葉したケヤキが樹林に彩りを添えている。 樹林は、概ね上層にバベ、林床にヒトツバやシロダモなどが茂るバベの純林。中腹でカゴノキの鹿の子まだらの樹皮がほの暗い樹林に映えている。
  峡谷の支流に架かる松尾橋の脇に、高さ5メートルほどの小さな滝がある。岩盤を滑り落ちる滝の流路を見るがよい。深く岩盤に刻まれた滝の流路は万古の証。海浜もいいが、山岳にもまた南予の純な自然がある。